小ネタを纏めたり、本編添いのシリアスやほのぼのを。

レイモンドとレティシアが多いです。

短めのこばなしを2本。

・変化(SO6:レイモンドとレティシア)

大きな変化と小さな変化。
それらが連続して起きているのが宇宙での出来事なのだ。

レイ、とレティシアが金髪の彼の名を呼んだ。
片や艦長として変わらず忙しく宇宙を飛び回る日々。
片や一国の王女として帝国と共に未開惑星と彼らが呼ぶ宇宙からすればほんの小さい星のひとつの行くべき道を導く日々。
そうした責務に追われる流れ行くときの中でも時折こうして会うための時間をお互いに設けていた。
今回はレイモンドがオーシディアス王国へと訪れる機会が巡ってきた。

どうしたんだ、レティシア。

最初はお姫さんやあんたと呼んでいた頃に比べれば随分と柔らかい返し方が出来るようになったもんだなと彼自身がそう思う。まあそれはお互いに面倒くさそうな奴だという考えと使えそうな人だとそれぞれの思惑もあったのだから。

初めて出会ったあの日から2年が経ったわね。
最初はとても大きな流れ星が落ちて来たと思って何かが起きているのだとそう感じて駆け寄って。人が乗り込んでいるなんて思いもよらなかった。

「知らないままだったことがたくさんあったの」
「全部を伝えることは出来ないさ。エレナがニーナに迫られても医療技術に関して教えなかったのと同じだ」
未開惑星が先進惑星の住人と関わることになりマリエルが銀河連邦の規定により監視下に置かれた。もっとも大事にはならない程度ではある。帝国とはテオと彼の父も内部事情を知りレティシアが時にレイモンドの惑星に遊びに行っても行き来しながら支えてくれている。マリエルも銀河連邦の腐敗をその目にして向こうで日々奮闘してくれている。スコピアムと融合したJJとは変わらず連絡を取り合っているとついこないだ彼女から知らせが来た。

「エレナさんは元気?」
「ここでブラックアウトさせられた以降は変わらない」

エレナさんは、とレティシアが続ける。
「ずっとレイを見守っていたのよね。彼女にとってあなたが間近で成長していくのを見届けていくのってどんな感じだったのかしら」
小さい頃アベラルドの片腕が失われてしまってから、ずっと責任を感じていた。アベラルドもレティと時に愛おしく想う幼馴染に対して自分を責めていた。義腕が原因でミダスやマルキアも国から追いたてられるように離れたのだ。テオドールは別の道を選ぼうとしていた。今はミダスとマルキアの助けもあり彼もひとりの本当の意味での騎士として立ち続けている。アベラルドの腕がそのようになってしまってから1年経ち2年経ち…それでも彼に対する責任は変わらない。年数が経つほどに王国内では不穏な動きと敵対する帝国との戦いの火種を嗅ぎ取っていた。一国の王女として年老いていく国王陛下を支えるためにも動かなければならない。お互いに責任感を背負いながら並んで、そして背中合わせに彼と過ごしていった。
「昔とそれほど変わらない、かな。俺がエレナを修理して港町で話したらちゃんとした生活を送っていたのかと責め立ててきたよ。保護者ってやつ」
旅をしている途中で確かに何度かふたりのそうしたやり取りを目にした。思わずふふっと笑みがこぼれてしまう。
「あなたにとってエレナさんもそんな感じみたいね」
居るのが当たり前のようにふたりの雰囲気から感じ取って。マリエルと面と向かって話し合う中、彼女があなたはアンドロイドですよね製品番号は―と続けようとすると“エレナだ”とレイモンドは遮ったのだ。
副官でウチには欠かせない成員だと、ミダスにはほぼ人なのだとそう彼は話す。
1年経ち2年経った頃には自分を優しく抱き上げる彼女がいた。
大学に行くようになり、ローレンス家としてひとりの艦長としても任命されてからはずっと一緒だった。そうした意味ではレティシアとアベラルドに似ているのかもしれない。
いざという時にしっかり判断を下せる艦長とその副官としての責任感もお互いにあった。
その背後にあるものがレティシアとアベラルドは異なっており。この2年でもふたりの関係も変わってきているのだろうとそう思う。オーシディアス王国においてそれぞれの道を歩もうとしているのだ。残ると決めたミダスやニーナと同じく。
自分とエレナはどうなるのだろう。忙しい日々であるがあの戦い以降エレナはもっと人の可能性について目を向けるようになったとそう思う。
人間が人間である限り一切の憂いなき楽園は存在しないという思考パターンは変えようがなくても。積み荷に対してそれを送る主と受け取る相手の幸せを願っても良いのですよねとそう微笑みながら語るようになってくれた。

またべグアルドに遊びに来いよ。
次はどこに連れて行ってくださる?

本当はここみたいに綺麗な星空が良いんだろうけど…プラネタリウムじゃ味気ないか。
そんなことはないわよ、面白そう。

ここに来てから星空を眺める意味について深くは考えるようになった。だからこそ良いのかもしれない。お互いにあるものの違いと見方。そこからまた新しい世界が広がる。
宇宙はとてつもなく巨大で。人はそれを掌握しようと狩り出る。
本当に必要な物や大切なものは案外近くにあるものだ。

ふたりはそれを感じられる出会いが出来たことに青空を眺めながら心の中でお互いに感謝しつつこの2年間を噛みしめることにした。

贈り物に花束を

・SO6より、アベラルドとエレナ。

アベラルドさんはレティシアさんとお互いに花束を贈り合ったりしたのですかと青空を眺めるエレナに問いかけられ、アベラルドは少し息を詰まらせた。
「どうして、また…」
「レティシアさんにレイへの贈り物を相談したのです。彼女は楽しそうに花を贈るのはどうかと答えてくれました。やはり候補に上がりますね」
「ああ…」
小さい頃から活発であり、お転婆でもあったが、あの丘に咲き誇る花たちとバーニィにレティは目をとても輝かせていたなとよく覚えている。
それが引っ込むかのように見せなくなったのは…原因はこの私ではないと彼女は言う。
それでも、ずっと責任を感じていた。私も、レティも。国のことも小さい頃遊んでいたことも分け合うかのように思い出せ。そしてお互いに何でも話し合える、信頼され信頼している仲ではあった。…どこか壁のようなものを感じながら。
「あいつ…いや、レイモンドはエレナさんからの贈り物ならとても喜ぶのでは」
レティシアにそっと、それこそ立ち寄った村の果実を贈り。彼女が微笑んでくれたことにほっとする自分の様に。
「そう見えますか。いえ、確かに私は副官としてレイに仕えています。レイはとても私を信頼してくれている」
「‥‥‥」
まっすぐに見つめてくる彼女にアベラルドは真剣に見つめ返した。
「それでも、どこか。…それを考えてしまう源は私の思考パターンにあるのでしょうね。全てを満たして上げられていないのでは、とそう思うのです」
レイはこの仕事が好きですし、私は小さい頃からローレンス家で彼と共に過ごし。
見守り、そして彼が成長すると共に歩めるようにと…。
「そうやって、生きてきたのですね」
「傍にずっと居ました。生きる、とアベラルドさんはそう表現するのですね」
レイモンド曰く、ミダス様に話した通り確かにエレナは“ほぼ”人ではある。
違いがあるとすれば、自分達のように感じるというより。物事を考える—思考パターンと言っていた—起きていることを反復しているようにも見える。
「エレナさんのような方が居て…満たされていないなんて、あいつは贅沢すぎるな」
確かニーナやミダス様と周囲を見て回ると出て行った方向へ腕を組みながら呆れた視線を向けると。
「レティシアさんとアベラルドさんには感謝しています」
エレナが微笑んでそう伝えてくれた。
「私は、特には…」
彼女もレティほどでなくても、彼が驚くようなことを言い出したりはする。
「ここに来てから、私もレイもよく星空を見上げるようになりました」
「…そら、でしたよね。見渡す限りたくさんの星があると聞きました。それまでもずっと見て来られたのでは」
空ではなく、宇宙(そら)を。
「ここは、レイの故郷より見上げればたくさんの星が見えます。旅をしているのは同じです。ただ、気づけていなかったと…レイと話し合いました。見上げること自体を、忘れていたと」
思えば始まりはレティシアが流れ星、と落ちて来た赤い舟からなのだ。
「…お役に立てているなら何よりです」
—レティも、自分ひとりだけでは…きっと、だめだった。
「おふたりに、感謝を。ありがとう」
風がやさしく撫でつける金色の髪も。
透き通るようなマリンブルーの瞳も。
今の彼女の微笑み方にぴったりだとそう思う。
「こちらこそ。エレナさんには感謝しています。ああ、そうだ。お礼といっては何ですが」

オーシディアス王国には花屋があります。
もし行くようでしたら探すお手伝いをしますよ。
助かります。アベラルドさんもレティシアさんの贈り物を選んでは。
いや…はい、そうですね。そうさせて頂きます。

エレナに対しては素直になれるなとアベラルドは感じながら、買い物を済ませて近づいてきたレティシアに軽く手を上げた。

贈り物に花束を。
大切な人が満たされていくのを願って。

レイモンドとレティシアを見守り支えていくふたりは良いコンビだと思っています。